ブルーダークの少年の記憶【Ⅲ】-4
2005年12月19日 エッセイAKがバスに忘れたらしきMDウオークマンを担任教師から受け取ったとき、担任はすまんなあという顔をした。結局この修学旅行中の「ザ・クズ班」の統率は、少なからず僕の力でもあった。あなたの職務にクズな僕が貢献してんだぞおい!本当はこんな風に助け合いながらうまくやっていくことってできたんだろ。傷つけ合うことなんかなかったんだろ。互いの立場がすれ違いをさせたのだ。衝突ってでもそんなもんなんだろう。話し合う余地があるなら戦争なんて起こらないんだろう。 こんなくだらない修学旅行、面白くも何ともなかったけど、ただ、僕にはまだすることがあった。奴ら「ザ・クズ班」のクズ3匹と、僕はまだ何一つソウルをコラボしてない。奴らの内面に触れたかった。ここまできた本当の意味、その機会こそを僕はこの旅でうかがっていたんだ。
修学旅行最後の夜は、クズどもがどこかの部屋に一同に集まってバカ騒ぎでもやる計画があるらしかった。そして結論から言えばその計画は見事に潰れた。
事の始まりは、夜更けに2人の女子が「ザ・クズ班」の部屋に来訪したことからだった。2人ともガクガクに酔っていた。手にはウイスキーの瓶があった。バカかこいつらと僕は思った。しかし、修学旅行の本質的な部分を見た気もした。 別にヤバイ雰囲気もないし、ほっとくと彼女らは廊下で倒れそうなので部屋に入れてやった。だけど、こんな所を見られたらヤバイんだろうなと思った。夜中に男子の部屋しかも「クズ班」の部屋に女の子2人が泥酔一歩手前なんてね。各御家庭の親御さんたちはこんな事態を一番危惧してるんだろうに。 故に夜間の部屋間移動、とりわけ男子女子間の部屋間移動は厳しくチェックされてた。教師側も旅先で不祥事を起こさぬよう必死だったんだ。僕の高校は底辺校だけどそれを「伝統」とか言い換えて、ギリギリ入学者を確保してるような学校だった。まだまだ落下できる可能性があるからこそ落下を食い止めようと必死こく公立校の悲しいパターンだった。
そんなわけで、夜中もご苦労なことに教師が交替でホテルの廊下歩いてたり「見回り」とかしてるわけだった。でも、最終日の夜は引率教師全員でうちあげで酒が入ることを僕は知ってたし、そんなにピリピリしてないんじゃないかなとか思っていた。どうせ明日には東京に帰るのだ。第一、この2人の女子が千鳥足のまま「クズ班」の部屋に辿り着けたこと自体、警戒が緩い証拠だろうと思った。しかし、僕の推測は外れた。その数分後、まさに最悪のタイミングで、突如ものすごい勢いで2人の教師が「ザ・クズ班」の部屋に飛び込んできたのである。
その場の全員が、何が起きたかわかっていなかった。ハア!?と僕は思った。教師どもはものすげえ形相をしていた。なんだなんだこの一斉検挙みたいな雰囲気は!?僕らが何か悪いことしたのか?
女子2人は頭を叩かれて連れてかれた。「お前たちも外出ろ」と担任教師は言った。もう一人の教師は、僕らを突き飛ばして、部屋に敷いてあった僕らの布団をメチャクチャにひっくり返し、「まだ誰か隠れてんじゃないのかァ」とか言って戸棚まで調べてた。そんなとこに人が入れるかバカが。 そして僕は無性に腹が立ってきた。重なった。自我が芽生えたときから僕が嫌悪してきたものに、そのときの教師どもが重なった。それは見苦しい権力の末端の横暴の姿だった。不毛な争いと、たちの悪い熱と、傲慢な保守権力を醜悪に行使する姿だ。久しぶりに僕の中に怒りの感情が沸いた。「ザ・クズ班」を救わなければと思った。
クズ3匹への同情じゃない。自分に非がないことを証明したかったわけでもない。だけど、僕らが一体何をしたっつうんだ?あの時点で女子2人を追い返すことなんて出来なかったハズだよ。わからないけど、教師側から僕らへの何かしらの負のレッテルが、状況を酷くしていたのは確かなようだった。故に僕はキレていた。徹底的にやるぞ。屈するのはまっぴらだ。「ザ・クズ班」の誰にも非はないだろが。教師どもの横暴な態度こそを謝罪させるべきだろが。僕が教師に詰め寄ろうとした刹那、AKが口を開いた。
「takebono君は関係無いッすよ」
あ!? AKは僕をかばってた。今思うと旅行の最初から、いや「ザ・クズ班」が決定したときから、AKは僕に何か負い目を感じていたのかもしれない。AKが促すとHIも「そだな、takebono君は関係無いな」と言った。ハア!?お前らだって悪くないだろうに。なぜ噛みつかない。 僕は動揺した。こんなクズたちにかばわれても…。 「そうか」と言って担任は僕に何か言いたそうな顔をして、僕以外のクズ3匹を部屋の外に連行していった。修学旅行最後の夜に、僕は一人で部屋に残されたまま立ちすくんでいた。
【つづっく】
修学旅行最後の夜は、クズどもがどこかの部屋に一同に集まってバカ騒ぎでもやる計画があるらしかった。そして結論から言えばその計画は見事に潰れた。
事の始まりは、夜更けに2人の女子が「ザ・クズ班」の部屋に来訪したことからだった。2人ともガクガクに酔っていた。手にはウイスキーの瓶があった。バカかこいつらと僕は思った。しかし、修学旅行の本質的な部分を見た気もした。 別にヤバイ雰囲気もないし、ほっとくと彼女らは廊下で倒れそうなので部屋に入れてやった。だけど、こんな所を見られたらヤバイんだろうなと思った。夜中に男子の部屋しかも「クズ班」の部屋に女の子2人が泥酔一歩手前なんてね。各御家庭の親御さんたちはこんな事態を一番危惧してるんだろうに。 故に夜間の部屋間移動、とりわけ男子女子間の部屋間移動は厳しくチェックされてた。教師側も旅先で不祥事を起こさぬよう必死だったんだ。僕の高校は底辺校だけどそれを「伝統」とか言い換えて、ギリギリ入学者を確保してるような学校だった。まだまだ落下できる可能性があるからこそ落下を食い止めようと必死こく公立校の悲しいパターンだった。
そんなわけで、夜中もご苦労なことに教師が交替でホテルの廊下歩いてたり「見回り」とかしてるわけだった。でも、最終日の夜は引率教師全員でうちあげで酒が入ることを僕は知ってたし、そんなにピリピリしてないんじゃないかなとか思っていた。どうせ明日には東京に帰るのだ。第一、この2人の女子が千鳥足のまま「クズ班」の部屋に辿り着けたこと自体、警戒が緩い証拠だろうと思った。しかし、僕の推測は外れた。その数分後、まさに最悪のタイミングで、突如ものすごい勢いで2人の教師が「ザ・クズ班」の部屋に飛び込んできたのである。
その場の全員が、何が起きたかわかっていなかった。ハア!?と僕は思った。教師どもはものすげえ形相をしていた。なんだなんだこの一斉検挙みたいな雰囲気は!?僕らが何か悪いことしたのか?
女子2人は頭を叩かれて連れてかれた。「お前たちも外出ろ」と担任教師は言った。もう一人の教師は、僕らを突き飛ばして、部屋に敷いてあった僕らの布団をメチャクチャにひっくり返し、「まだ誰か隠れてんじゃないのかァ」とか言って戸棚まで調べてた。そんなとこに人が入れるかバカが。 そして僕は無性に腹が立ってきた。重なった。自我が芽生えたときから僕が嫌悪してきたものに、そのときの教師どもが重なった。それは見苦しい権力の末端の横暴の姿だった。不毛な争いと、たちの悪い熱と、傲慢な保守権力を醜悪に行使する姿だ。久しぶりに僕の中に怒りの感情が沸いた。「ザ・クズ班」を救わなければと思った。
クズ3匹への同情じゃない。自分に非がないことを証明したかったわけでもない。だけど、僕らが一体何をしたっつうんだ?あの時点で女子2人を追い返すことなんて出来なかったハズだよ。わからないけど、教師側から僕らへの何かしらの負のレッテルが、状況を酷くしていたのは確かなようだった。故に僕はキレていた。徹底的にやるぞ。屈するのはまっぴらだ。「ザ・クズ班」の誰にも非はないだろが。教師どもの横暴な態度こそを謝罪させるべきだろが。僕が教師に詰め寄ろうとした刹那、AKが口を開いた。
「takebono君は関係無いッすよ」
あ!? AKは僕をかばってた。今思うと旅行の最初から、いや「ザ・クズ班」が決定したときから、AKは僕に何か負い目を感じていたのかもしれない。AKが促すとHIも「そだな、takebono君は関係無いな」と言った。ハア!?お前らだって悪くないだろうに。なぜ噛みつかない。 僕は動揺した。こんなクズたちにかばわれても…。 「そうか」と言って担任は僕に何か言いたそうな顔をして、僕以外のクズ3匹を部屋の外に連行していった。修学旅行最後の夜に、僕は一人で部屋に残されたまま立ちすくんでいた。
【つづっく】
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