期末テストの時期だった。HIは留年が決まったらしく完全に学校に来なくなって、話し相手がいなくなったAKは隣の女の子とばかり話していた。聞こえてくる話の内容から、どうやらAKも試験の結果次第では留年だということがわかった。

最初は、僕が知ったことかよざまあみろと思った。いなくなればいい。こんなバカが、クズヤンキーが、社会のゴミが消えれば、このクソ学校も少しはマシになるだろう。消えろ。死ねばいい。勝手に自滅しろっ。そんな風に思ってた。 …だけど、思ったんだ。留年したらこいつどうなんだろって。僕らはクズだ。クズ故に、疎まれ、軽んじられ、避けられ、いつか排除されてく。でもホントにそれでいいのかよと思った。このままだとAKは確実に留年する。きっと彼のクズ仲間も、クラスメートも、教師も、親さえも、そんな結果を見て見ぬふりするんだろう。たかが一人のクズが当然のように落ちてゆく。社会はそんな風に僕らを切り刻むんだろう。takebonoよ、お前それでいいのか?って、そんとき僕は思ったんだ。救うなんて傲慢だ。でも、光を当てれば輝くものってあるんじゃないのか。手を伸ばせば繋げるものって実はあるんじゃないのか。何にもならないのだろうけど、誰も褒めやしないのだろうけど、慈善事業なんてしたくもないんだけど、でも僕はAKを助けたいと思ったんだ。強く思ったんだ。いくらクズでもよー、こんな所で消えていいわけがないだろが。淘汰なんかされていいわけがないんだって。同情なのか共感なのかもよくわかんなかった。ただそれは僕が初めて自分以外の友達のために動くことができる何かだったんだと思う。
そして僕はある日AKに話しかけたんだ。
(自分)「AK君は何(の教科)がヤバイんだ?」
(AK)「え?あ…あぁ…○○と○○と○○…」
(自分)「見してみ」
AKは何だこいつって目をしてた。力のある奴ほど今まで誰も君の力になろうとしてこなかったんだね。待ってろ、僕が今助けてやる。絶対に留年なんかさせない。 僕はAKのノートをひったくった。勉強の痕跡すらない真新しいページが開いた。教科別にファイリングできるノートで、期末テスト全ての科目が教科名だけ貼られてファイリングされてた。もがいていると思った。本当はコイツだって留年なんかしたくないんだ。だけど、きっと何をやっていいかわからないんだ。かつて僕もそうであったように。あらゆる勉強嫌いがそうであるように。
そして僕はAKに勉強を教えた。正確には、テストで点を取る勉強法を教えた。学校の試験なんてそんなものだった。AKは不思議そうな顔をして素直に僕に従った。

ヤマは当たった。AKは期末テストを無事クリアした。何とか僕はAKの力になることができたのだ。
「takebono君にお礼言わなきゃよー!」とかクズ仲間と騒いでたようだけど、仲間の手前、気まずさってやつだろうか、いざ僕と目が合うとAKはそっぽを向いた。別にお礼なんて不要だった。ただ僕はちゃんとAKが底辺を生き残れたことがうれしかった。そしてその日からまた僕らは一言も会話することはなくなった。

一度だけ、放課後にAKと自転車置き場でとすれ違ったことがあった。僕に気づくとAKは無言で頭をかくんと下げた。あれは、不器用なAKが見せた彼なりの誠実な感謝の気持ちだったのかもしれないね。

その後AKは髪型をよく変えた。ロン毛からアフロやドレッドにもなった。そしてその後卒業まで僕らは一言も口をきかなかった。それでよかったし、そうあるべきだった。たまに思い出すこともあるけど、僕らはきっと二度と出会わなくていいのだと思う。

ただ、歌を聞きたかった。AKがあの夜語った自分の夢に出てきた歌だ。流行りでもなく、誰かに歌えるものでもなく、ろくでもなく、みっともなく、どうしようもない、でもAKだけが創れる歌だ。それはきっと僕らの歌でもあるんだろう。いつか聴かせてほしいんだ。あの修学旅行の夜のような透き通る声で、遠くを見つめていたあの目で、君は激しく切なく君だけの歌を歌うんだ。作詞は僕がやってやる。曲名は「ブルーダークの番外地」だ。きっとまだくたばっていないで、どこか番外地みたいな所でバカやってるんだろうからな君は。

あの時代の僕がAKとコラボした記憶は、今でもたまに思い出す、特に鮮明に記憶に残っている僕のブルーダークメモリなのでした。
【END】

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