ブルーダークの少年の記憶【ⅩⅡ】-2
2008年11月23日 エッセイ僕たちは秋にHの大学に集った。冬に都内の大学間で連携するイベントのためだった。その企画自体は大規模で面白いもので、大学生活において貴重な思い出となった。僕はスタッフとして参加し、Hはリーダーとして苦しみ抜き、イベントを大成功に終わらせた。イベントの最中、Hは僕にぼそっと言った。
「おれは今回のこの企画が終わったら、ある賭けに出ようと思ってるんだ」
いま思うと陳腐なものだったが、あのスタイルはその後の僕に多少影響を与えたように思う。しかし、その「賭け」がどうなったのかを知らないまま、僕たちはそれ以来会うこともなく、あっという間に1年ほどが過ぎていった。
ある日、大学の7限の講義が終わって帰り際の教室でケータイが鳴った。着信画面を見たら奴だった。慌てて電話に出て「久しぶりじゃんH!」と僕が言おうとする前に、
「takebonoくん? あのさァ、旅に出たくない?」
と、懐かしいHの声が耳に入った。
「ハァ!?」と、僕は呻いた。
「おれさー、いま映画監督と飲んでるんだ。監督と一緒に今度世界の国々をみて回ってくるんだ。takebonoくんも一緒にどうかなーと思ってさ!」
電話を切ってしばし僕はボーっとした。あいつは世界か。すごいなと。
ふと顔を上げたらBちゃんがキレてた。「人と話してるときってさ、フツー何かしら断ってから電話とるもンじゃない?」とBちゃんは言った。
ゴモットモ。そういえばBちゃんと何話してたんだっけ僕は、とそこで気が付き。
全然頭に残ってなくて、「今何話してたっけ?」とか聞くとまたキレそうだったのでゴメンゴメンと即座に誤った。
Hいまなにしてんだろ。
「監督」とやらと世界を観て回れたんだろうか。
もしかしたら、と思う。
アイツは「賭け」に勝ったのかもしれない、と。
いろんなものを始めようとしていたお互いのあの頃の、Hと食って飲んだお好み焼きとビールの味が忘れられなくて、僕は広島に行ったときは必ずあの「お好み村」に寄る。
もしあなたが広島に行くことがあったら、具だくさんのお好み焼きを、火傷に気を付けながらガツガツ食ってビールを飲んで、広島市民球場でカープの応援をした後で、もう一度原爆ドームの前を歩いてみてはくれないか? 僕がHと汗を拭い語り合いながら歩いた道がそこにあるんだ。
あの頃は何かを始めたくて仕方がなかった。何が出来るのかもわからないのに、何かを始めたくて仕方がなかった。そんな二人が出会ったということ。そんな一つの奇跡から、僕は一つのことを確信したんだ。
求め続ければ、出会い続ける、ということ。
いくら熱く、いくらクールで、いくら他人から評価され誤解されようとも、結局は君は優しい人間だった気がするよ。
いつか会うだろう。外国かもしれないね。いやたぶん場末の飲み屋だろうね。せめてそのときまでブルーダークメモリとして残しておくよ。なーH。
【END】
市民球場なくなるなんて思いもしてなかった頃に書いた文章なんだな
「おれは今回のこの企画が終わったら、ある賭けに出ようと思ってるんだ」
いま思うと陳腐なものだったが、あのスタイルはその後の僕に多少影響を与えたように思う。しかし、その「賭け」がどうなったのかを知らないまま、僕たちはそれ以来会うこともなく、あっという間に1年ほどが過ぎていった。
ある日、大学の7限の講義が終わって帰り際の教室でケータイが鳴った。着信画面を見たら奴だった。慌てて電話に出て「久しぶりじゃんH!」と僕が言おうとする前に、
「takebonoくん? あのさァ、旅に出たくない?」
と、懐かしいHの声が耳に入った。
「ハァ!?」と、僕は呻いた。
「おれさー、いま映画監督と飲んでるんだ。監督と一緒に今度世界の国々をみて回ってくるんだ。takebonoくんも一緒にどうかなーと思ってさ!」
電話を切ってしばし僕はボーっとした。あいつは世界か。すごいなと。
ふと顔を上げたらBちゃんがキレてた。「人と話してるときってさ、フツー何かしら断ってから電話とるもンじゃない?」とBちゃんは言った。
ゴモットモ。そういえばBちゃんと何話してたんだっけ僕は、とそこで気が付き。
全然頭に残ってなくて、「今何話してたっけ?」とか聞くとまたキレそうだったのでゴメンゴメンと即座に誤った。
Hいまなにしてんだろ。
「監督」とやらと世界を観て回れたんだろうか。
もしかしたら、と思う。
アイツは「賭け」に勝ったのかもしれない、と。
いろんなものを始めようとしていたお互いのあの頃の、Hと食って飲んだお好み焼きとビールの味が忘れられなくて、僕は広島に行ったときは必ずあの「お好み村」に寄る。
もしあなたが広島に行くことがあったら、具だくさんのお好み焼きを、火傷に気を付けながらガツガツ食ってビールを飲んで、広島市民球場でカープの応援をした後で、もう一度原爆ドームの前を歩いてみてはくれないか? 僕がHと汗を拭い語り合いながら歩いた道がそこにあるんだ。
あの頃は何かを始めたくて仕方がなかった。何が出来るのかもわからないのに、何かを始めたくて仕方がなかった。そんな二人が出会ったということ。そんな一つの奇跡から、僕は一つのことを確信したんだ。
求め続ければ、出会い続ける、ということ。
いくら熱く、いくらクールで、いくら他人から評価され誤解されようとも、結局は君は優しい人間だった気がするよ。
いつか会うだろう。外国かもしれないね。いやたぶん場末の飲み屋だろうね。せめてそのときまでブルーダークメモリとして残しておくよ。なーH。
【END】
市民球場なくなるなんて思いもしてなかった頃に書いた文章なんだな
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